ねこのつめ合わせ

会社員☞海外大生☞会社員☞漫画家 瞬間的にやりたいことをやっていると職業遍歴が散らかった。ラインスタンプ出したけど売れず、漫画描いたけど人気出ず、ノベル書いたけどこれに至っては誰にも読んですらもらえず。何かを制作・リリースすればするほど自分の存在意義が透明化していくように感じる今日この頃。漫画家なのに最近漫画描けていないからただのひきこもりに進化してこんな風に言葉を散らかしてます

お母さんはぼくのために【倫太郎君は英会話スクールに行きたくない(終)】

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前回のあらすじ

荒れてばかりでレッスンの成立しないキッズ英会話を担当することになった新人英会話講師のきゃとらに。そんなきゃとらにが配属されたのはやる気のないう◯こ絶叫少年『倫太郎(仮名)』君など個性あふれる生徒様ばかりが集まったクラスだった。子どもとの接し方を知らないきゃとらにのクラスはどうなる?🐈

 

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目次

 

※この記事はあくまで個人の体験・感想です。

 

 

 

 

土曜日のレッスン後の教室はそれでこそ台風が過ぎ去った後のような静けさです。

今日も無事に終わった。

次のレッスンが始まるまでのたった10分間、この恍惚感に浸るのが土曜日一番の楽しみです。

 

この後5コマ連続でレッスンが入っているため実は全っ然終わっていないのですが、朝のキッズクラス2コマを終えた達成感があまりにも大きいためまるで既に一日やり遂げたかのような錯覚に陥ってしまいます。

それに残り5コマは大人とのレッスンばかり。極めて平和なのです。

 

 

しかしこの日はこの貴重な10分間を共に過ごす人がいました

 

 

わたしは倫太郎君とたった2人他の子ども達が皆帰ってしまった教室の真ん中に相対する格好で座っていたのです。

 

 

いつもだと軟体動物みたくグニャングニャンな体制で机に突っ伏し腕をだらんと垂らしているため、細い肩を強張らせ行儀よく両手を膝に乗せて腰かける倫太郎君はそれだけで別人のように見えました。

 

 

 

居残り

 

「なんで自分が残されているのか分かりますか」

 

わたしは倫太郎君の視線を逃さないようにしながら尋ねました。

 

「はい。レッスン中の態度が悪かったからです。」

 

いつになく緊張した面持ちの倫太郎君が答えます。

 

そう、この日はいつもに増してひどかったのです。

以前ならホワイトボードに落書きする、床に寝ころぶ、下ネタを絶叫するなどいずれもソロプレイにしか興味のなかった倫太郎君でしたが、ここ数週間ほど周囲の子ども達と割と積極的に関わり始めたのです。

 

レッスン中に。

 

それも嫌がる雄大くんに無理矢理チューしようとしたり、真面目にレッスンを聞いているサラちゃんにしつこく話しかけようとしたり、といったウザ絡み。

 

しかもゲームをすれば負けるや否や美憂ちゃんの単語カードを四方八方にばら撒きまくって泣かす(そして普段呆けてレッスンを聞き逃しているためよく負ける)。

 

 

悪酔いした酔っ払いか!

 

 

度重なる注意も振り切り迷惑行為を繰り返した倫太郎君はこの日とうとうクラス史上初のNaughty chair(わんぱく椅子)送りとなったのでした。

 

講師であるわたしの真隣りにクラスメイトと対面する格好で机につくこと年齢+1分(9+1=10分)、倫太郎君はようやく落ち着きを取り戻したのですが、この悪ノリがここ2、3週間悪化の一途を辿っていたこともありこうして放課後腰を据えてお話しすることにしたのです。

 

 

例によって自分の態度に問題があると分かっているなら話は早い。

 

「そうですね。

 もっと正確に言えば倫太郎君が他の子たちの邪魔をしていたからです。」

 

わたしの予想が正しければ倫太郎君は同世代の子に比べ洞察が鋭く賢い。

そのためわたしは彼と率直に話すことにしました。

 

「倫太郎君自身がレッスンに集中できなかったりわたしの話をまるっきり聞いてなかったりするのは講師としては残念ですが、それは倫太郎君の自由だと思ってます。

レッスンから学ぶか学ばないか、倫太郎君には選ぶ権利があるからです。

その権利はいくら講師のわたしでも取り上げることが出来ません。

 

ここで注意してほしいのは他の子たちも同じ権利を持っているということです。」

 

ここまで言ったところで、倫太郎君は口をキュッと真一文字に結びました。

どうやらわたしの言わんとすることに気付いたようです。

 

「あなたは彼らの権利を奪っています。」

 

下を向く倫太郎君。

 

「だからわたしは彼らの権利を守らなければなりません。」

 

次のレッスンまで残り時間はあと3分少々。

 

「倫太郎君がもしやる気がない、レッスンに来たくないというのであれば今後無理して来る必要はありません。

 小・中学校みたいに義務教育じゃありませんから。

 お母様を説得する必要があるならお母様にはわたしからお話しします。」

 

なんなら今からでも、と腰を浮かしかけたその時でした。

わたしはロビーに向かいかけていた足を止めました。

 

倫太郎君がわたしの腕をつかんでいたからです。

 

 

「待ってください。」

 

 

絞り出すように倫太郎君は言いました。

その顔には焦りと戸惑いの色がない交ぜになって浮かんでいます。

 

 

「母には、このことを言わないでください。

 お願いします。」

 

「どうしてですか?英会話スクールには来たくないんでしょ?」

 

 

すると倫太郎君は言いました。

 

 

お母さんは僕の将来のためを思って英語を習わせてくれてるから。」

 

 

一瞬、倫太郎君を毎週マクドナルドで釣ってスクールに連れて来ていると語っていたお母様の顔が思い浮かびました。

と同時に胸が詰まります。

 

 

そのようなことをするまでもなく倫太郎君はお母様の真意を理解していたのです。

理解していたからこそお母さまの意に沿わない自分の意思を口に出せずにいたのです。

 

床に身を投げ出し

愚にもつかぬ絶叫をし

他者まで巻き込んでまで

レッスンをぶち壊したかったのは

マクドナルドで釣られたフリしてハンバーガーをおごらせ続けたのは

 

現状を諦めてしまった倫太郎君の、せめてもの抵抗だったのでしょうか。

 

 

ロビーに滞留していたざわざわがわたしたちのいる教室前の廊下へとなだれ込んできました。次の授業を受講する生徒様が一斉に教室へと移動を始めていました。

 

 

 

 レッスン最終日

 

「このクラスも今日で卒業かー」

 

妙に感慨深げにサラちゃんが言いました。

それに対し

 

「どうせ次のクラスも似たようなメンバーになるよ」

 

と水を差す雄大くん。

 

「・・・・」

 

恥ずかしがり屋の美憂ちゃんは相変わらず一言もしゃべらずにモジモジしながら会話を聞いています。

 

「あ、先生今日が最後だからみんなの写真撮ってもいいよ!」

 

サラちゃんがそう言うと4人の子ども達はそれぞれホワイトボードを背に写真の体系に並び始めました。

 

撮ってもいいよとは?

思わず笑ってしまいます。

 

この1年キッズクラスを6つ担当しましたがそんなことを言われたのは後にも先にもこのクラスだけでした。

 

 

「いやぁこの1年色々あったねぇ。」

 

そう口にするサラちゃんを、ババくせぇ、とバカにしたように雄大くんが笑いました。

 

「そりゃサラが色々やらかしたからだろ。」

 

「まぁわたしもあの時は若かったんだよ。」

 

一年でどれだけ年取ったつもりなのだろうか?

 

「まあでも倫太郎ほどではないよね。」

 

サラちゃんはそう言うとニヤニヤ顔を倫太郎君に向けました。

それに対して倫太郎君は特に何も言い返さず「フンっ」と鼻であしらいます。

 

「てか倫太郎もほんと変わったよね。」

 

「あぁ、マジで真人間になったな。児童英検準備クラスも真面目に受けてたし。

 お前もしかして英語好きになったとか?」

 

すると倫太郎君は

 

「そんなわけないだろ。仕方なくやってるんだよ。」

 

と心底うんざりした様子で答えました。

この中で1歳年下の倫太郎君だけが次年度違うクラスになります。

 

「次また先生が担任?」

 

倫太郎君がわたしに尋ねました。

それはどっちの意味かな。

実はこの時、わたしは結婚・転居による退職が決まっていたので次年度彼らを担当しないことが決まっていました。

しかしこの時は彼らにその事実を告げる気になれず、ただ

 

「まだ分かりません。」

 

 とだけ言ってiPhoneのシャッターを切りました。

 

 

 

あれから何度も春を迎えました。

あの時小学校3年生だったあなたももう中学生ですね。

とはいえまだ中学生です。

無理に自分を殺さず

思い通りにいかない人生にあっても

不器用な反骨精神と

無謀な大志を忘れず 

思春期の青少年らしくあることを

期待しています

 

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きゃとらに🐈 

 

 

おしまい

 

 

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