■スポンサーリンク
前回のあらすじ
キッズ英会話を担当することになった新人英会話講師のきゃとらに。そしてやる気のないう◯こ絶叫少年『倫太郎(仮名)』君はきゃとらにの生徒様となることに。しかし開校に先立ち先輩講師たちから倫太郎君の事を色々聞かされるうちに、倫太郎君には隠された顔がある気がしてならないきゃとらにでしたとさ🐈
🐈初めから読んでくださる方☟
🐈前回のお話を読んでくださる方☟
目次
※この記事はあくまで個人の体験・感想です。
新学期始まる
わたしが勤めていたスクールの女性講師はフェミニンなデザインでベージュや淡いピンク、オフホワイトに彩られたビジネスカジュアルを好んで身につける傾向があるようです。
彼女らのそうしたスタイルは、彼女らのもつ快活かつ柔らかな雰囲気によくマッチしていました。
それは人一倍優しく気配り上手な主任も例外ではありません。
その日も主任は春らしい桜色のシャツにオフホワイトのジャケットとスカート姿だったため、その隣に立つ黒のパンツスーツ姿のわたしは多少子ども達の目に異様に映ったようです。
レッスン開始冒頭主任はわたしが新たな担任となることを子どもたちに紹介したのです。しかし綺麗なアメリカ英語を主任が話し始めるや否や、それを合図と言わんばかりに子ども達のおしゃべりも始まります。
え、誰この人?
きゃと…先生?
さぁ
知らん
それよりさぁ
スクールでは「No Japanese」がルールです。
それは講師も同じこと。レッスン中日本語を話すことは口酸っぱく禁じられます。
「子どもは英語を浴びるように聞くことで自然な英語を身につけることが出来るから」というスクールの方針によるものでした。
しかし見たところ、幼児期から英会話スクールに通う倫太郎君を始め英会話スクール歴3年以上の子ども達の中にそれができる子はいないようです。
わたしと主任以外誰一人理解できなかったわたしの紹介を終えると、主任は「あとはよろしく」と、退室していきました。
レッスンを始める前に
「Ok everyone, let us start!…と言いたいところですが」
突然の日本語に子ども達のおしゃべりが止まります。
「あ、先生日本語しゃべった」
そういうあなたもね、少年のような短髪の女の子に心の中でツッコミながら
「はい、サラちゃん。レッスンを始める前に大切なお話をしたいので日本語でお話しします。というわけで倫太郎君、まずはお座りください。」
と、ついでに早速教室内を徘徊中だった倫太郎君にも着席を促します。
わたしのこの大人の対応、いつまで続くことやら。
5人の子ども達はまだわたしに対する対応を決めかねていたのでしょう。
倫太郎君も取りあえず大人しく着席した今、10個の目が一斉にこちらを向いています。
「わたしはきゃとらに、と言います。みなさん、進級おめでとうございます。みなさんももう中学年ですね。当然もう低学年ではありません。なのでみなさんには中学年らしい振舞いを期待しています。」
なるべく低い声で目を見ながら語り掛けます。
ゆっくりな口調とは裏腹に心臓は今にも口から飛び出しそうな勢いで早鐘を打っていました。開始数分でスーツの下は既に汗がじっとりにじみます。
低い声に黒のパンツスーツ、このように小手先で相手をけん制しようとしたのは、他ならぬわたしがビビっていたから、というのが理由のまず一つ目。
加え、淡い色は相手に親しみを感じさせる。しかしわたしがまず目指したのは子ども達に親しみを感じてもらうことではなく、クラス内に秩序と統制をもたらすこと。
つまりむしろ生徒様である子どもたちと講師であるわたしの距離感を明確化することだったのです。
また「中学年らしい振舞いを期待する」という発言は児童教育をよく知るあの人からのアドバイスでした。
父より学ぶ
じゃあ、1・2年生や5・6年生には何て言うの?
残念ながら全学年の担任を持つことになったわたしは、父にすがるように尋ねました。父はこの道うん十年の小学校教師。とはいえわたしは父の働いているとこを見たことなどありませんし、父は仕事のことを子どもであるわたしに普段話したりはしません。
しかし毎年教え子から年賀状がハガキ職人でもいるのかってくらいどっさり届いたり、ちょくちょくメールや電話などで連絡がきたり、外で父を見かけた元生徒が話しかけてくる様子などを見ていると彼が良い教師であったことは推して知ることが出来ます。
そこで新学期が日ごと近づくにつれ不安を乗算させるわたしは彼の知恵を借りることで少しでも精神の安定を得たかったのです。
どんより顔のわたしを見ながら父はあっさりと言いました。
1・2年生には「もうあなたたちは幼稚園生じゃありません」
5・6年生には「もう高学年ですね」
と言えばいい。
なるほど!と心配のし過ぎですっかり霧かがっていた心に父の言葉は一筋の光をもたらします。その後父は一気に言葉を継ぎました。
「子どもは大人が期待する振舞いなど事前に知る由もない。だから一番最初に基準を設けて明確化しなさい。ルールを作りなさい。あなたが子どもを叱る時理由が明確であるために。」
「一度決めたルールは守らせなさい。そしてあなたも守りなさい。途中からより厳しくしたり、緩くしたりするのはお薦めしない。一貫性をもたない大人を子どもは信用しないから。子どもはあなたの態度に揺らめきがあるとそれを敏感に感じ取るのでそれを覚えておきなさい。」
「子どもはある意味野生動物と同じだ。相手の許容範囲を推し測り、自分より上か下かを見極め、それ次第で態度を決める。」
圧倒されました。
初めて聞く先人の知恵の数々。ありがたい。ありがたいけど、
わたし英語講師なんですけど!躾は専門外なんですけど!
考えるより先にそう言っていました。父に言っても仕方ないのに。
父はそれを聞くとただ静かに言った。
「うん、お父さんもそう思う。
子どもが問題を起こして保護者が『学校はどんな教育してるんですか』って言って来る時、『逆でしょ。躾は親の仕事でしょ』っていつも思う。でも仕方ないよね。子どもと日中の大半を過ごすのは担任である自分なんだから。」
そうだ、仕方ないんだ。
分かっていたことじゃないか。
英語を教えるには秩序の確立が不可欠。
だから父に教えを乞うたんじゃないか。
戦いの火蓋は切られた
というわけでルールを発表しました。
1. Speak English. ただし質問は日本語でしても良い(I have a quiestionを事前に言う)
2. きゃとらには基本英語を話すが注意をする時は日本語を話す
3. 一度に話すのは1人。他の人は静かに話を聞くこと
4. レッスン中レッスンに関係のないことはやらない。また関係のないものをカバンから出さない。出した場合はレッスン中はきゃとらにが預かり、レッスン終了後保護者様に返す
えーーーーーー!!
たちまち不満の声が上がります。
マジかよ!DSとか遊戯王カードとか集めるのいくらしたと思ってんだよ!
ありえねぇ!横暴かよ!
うんこーーーー!
なるほど。一つずつ対処する必要がありそうです。まずはお約束のうんこ絶叫した倫太郎君。
「倫太郎君。どうなさいました?トイレに行く必要がありますか?緊急の場合は仕方ありませんがもう低学年じゃないので今後トイレはできるだけレッスン前に済ませてくださいね。」
すると倫太郎君は話しかけられたことに意外そうな顔をするとすぐに慌てたように
「あぁ、いえ、何でもありません。トイレ別に行きたくありません。」
と言って目をそらしました。
次にスポーツ刈りにギザギザ前髪という絵に描いたようにジャイアンヘアの雄大くん。
「雄大くん、あなたのDSや遊戯王カードですが、持ってくるなとは言いません。レッスン後使う予定があるかもしれませんからね。だから取り出さなければいいだけの話です。レッスンでは100%必要ありませんから。」
しかし雄大くんはまだ不満そうでした。
「それでも取り上げるとか横暴すぎるだろ。お客様は神様だぞ!」
ここで言うかそれ。
何が何でも自分の思い通りにしないと気が済まないところはまさにリアルジャイアン。しかし本物のジャイアンですら神は自称しなかったのでは?
わたしは教室のドア近くにどっかり腰かけていたジャイアンもとい雄大君に歩み寄ります。
するとドアの小窓越しにクラスの様子をうかがっていた主任が視界に入りました。
「嫌われたら終わり」
主任の言葉が頭をよぎります。主任、申し訳ありません。先に謝ります。
「雄大くん」
わたしは、ゆっくり口を開きました。
「確かにお客様は大切です。でも勘違いしないでください。
わたしのお客様はスクールにお支払いくださっているあなたのご両親。
あなたはあくまでもわたしの生徒です。
そしてお客様であるあなたのご両親はあなたがこの教室で英語を身につけることをお望みです。DSやカードで遊ぶことではありません。
そしてお客様のご希望に沿うよう努めるのがわたしの仕事です。」
これは、わたし自身への言葉でした。
それにしても早くも大人の対応はどこへやら。
嫌われたら終わり、というならなら、まさにその日は終わりの始まりに相応しい初日となったのでした。
つづく
きゃとらに🐈
■スポンサーリンク
🐈つづきです☟