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前回のあらすじ
荒れてばかりでレッスンの成立しないキッズ英会話を担当することになった新人英会話講師のきゃとらに。そんなきゃとらにが配属されたのはやる気のないう◯こ絶叫少年『倫太郎(仮名)』君やレッスン中にDSをやりたくて仕方のない雄大くんなど個性あふれる生徒様ばかりが集まったクラスだった。子どもとの接し方を知らないきゃとらにのクラスはどうなる?🐈
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目次
※この記事はあくまで個人の体験・感想です。
キッズ英会話ダイエット?
「先生スーツが体系にあってなくないですか?ちょっと大きすぎる気がするんですが」
ある日銀行にお勤めの生徒様からレッスン中に言われました。
それもそのはず。
新年度開始から5か月弱、わたしの体重は8kg減っていたのです。
悩んでる?
ストレス?
拒食症とかなんじゃない?
待合室で先輩講師たちが心配して声をかけてくれます。
「大丈夫です。むしろ逆なんです。」
そういうとわたしはコンビニのものにしては大き目なビニル袋からカップヌードル(キングサイズ)、おにぎり、菓子パン、(申し訳程度の)サラダを取り出しました。
「そんな小さな体のどこにそんだけ納まるの?」
これだけで引かれてしまったんじゃ、仕事帰り(9時過ぎ)に森永エンゼルパイ6個入りやらシュークリームみたいなクリームやチョコレートたっぷりなスイーツを黙々とほおばりながら1時間の道のりを帰宅してることなんて言えそうにもない。
というわけで断じて拒食症ではありません。
ただ神経をすり減らしていることは確かでした。
主任に言わせればレッスン中子どもたちが机についていること自体が奇跡、とのことですがそこに至るまでやはり一筋縄ではいかないのです。
だってほら、今だって次の時間倫太郎君達のキッズ英会話がおこなわれる教室からドカッドカッて妙な音が聞こえてくる。
子どもとあやまち
一定間隔で刻まれる衝突音と嫌な予感に誘われ教室に行くと、案の定雄大くんが野球ボールサイズのまあまあ硬いゴムボールを天上の蛍光灯目がけ交代で投げていました。
何をやっとるんだ。
呆れたわたしの顔を見るなり説教の予感を察知したのか、
「今は、まだレッスン前だ…ですよね!」
と雄大君は取り急ぎ自らの無実を主張してきました。
ボールを没収されると思ったのでしょう。
しかし残念ながら今回のポイントはそこじゃない。
このまま蛍光灯にボールをぶつけ続けたらどうなるか考えてみてください。
蛍光灯が割れて破片が降ってきたら危ないでしょう?
わたしは想像を促しながら説明しました。
一応ウンウンと聞く雄大君。
しかし未経験の危険に対し実感をもてない子どもが同じ過ちを繰り返すのはよくあることなので、ついでに
「今後スクールのものを壊したら、ご両親でなく壊した人本人に弁償してもらいます。」
とも言い渡しておきました。
実際のところ、備品破損に対しスクールがどのような対応をするかは知りませんでしたが無駄な破壊行為の歯止めになればと願いつつ。
すると
「小学生にそんなお金あるわけないじゃん!」
とまだ請求されてもいない弁償を必死で回避しようとする雄大くん。
どうも彼は最悪のケースを回避するよりも、それが発生した際の責任逃れを回避することに頭がいきやすいようです。
そんな彼には
「お年玉があるでしょう?待ちますよ、お正月まで。」
と返済の特別延長措置も案内しておきました。
この日以降子ども達が物の扱いに多少神経質になったことは言うまでもありません。
こういうことがある度に、子どもとはこうも色々と教えなければならないものなんだな、と改めて気付かされます。
自分も一度は子どもだったくせに、自分が未熟で無知だった頃のことはすっかり忘れまるで自分だけは初めから何でも知っていたかのように偉そうにしてしまうのです。
恥ずかしいことです。
だからか大人同士での共通認識が、子ども相手に齟齬をきたす度に驚かされます。
サラちゃんの場合
サラちゃんは英会話以外にも数多くの習い事を掛け持ちし、毎日何らかの習い事に通っていました。
そのせいかレッスン中単語暗唱やゲームは真面目には取り組みますが、それ以外の時間は隙あらば他の習い事の宿題をしたり、その週お家でやってほしい課題をレッスン中に済ませようとしました。
代々彼女を担当してきた講師は彼女のそうした様子に気付いていたものの注意はしてこなかったそうです。
「他の子に迷惑をかけるわけでもないし」
というのが理由でした。
そしてわたしもこの件については随分迷いました。
というのも多くの課題に悩まされる経験はわたしにも覚えがあるからです。
一番記憶に新しいのは大学時代。週4で行われるクラスで授業毎に30ページの読書課題、読書感想文(英語)、論文作成(英語)といった課題が出されることはざらにありましたが、その度に「わたしが受けてるのはおたくの授業だけじゃないんですけど」と心の中で毒づいたものです。
きっと今のサラちゃんだって同じ気持ちでしょう。
「わたしがやってるのは英語だけじゃないんだから」
確かに学校や塾からも宿題が大量に出されているようでした。
そんな彼女に鞭打つような真似をするのはわたしの望むところではありません。
それならレッスン中せっせと内職する彼女を見逃してあげるべきでしょうか。
しかしそれでは『レッスン中に関係のないことをやらない』というルール違反になり他の子ども達に対し不公平になってしまいます。
そんな風に悩んでいたある時サラちゃんは例によって次の週に提出すべき宿題をレッスン中に済ませた上、レッスン終了直後に提出してきました。
「はい先生」
その顔はとても得意気でした。
そうか。わたしはある事に気付きました。
そこでわたしは宿題に丸を付けると、それを返却しながらこう伝えました。
「課題はきちんとできています。ですが次からは宿題はお家でしてきてください。」
得意気だったサラちゃんの表情がみるみるうちに曇っていきます。
「なんで、いいじゃん!終わったんだから!」
サラちゃんは大声で抗議してきました。褒められると思っていたのに、褒められるどころか注意までされたことにすっかり傷ついてしまったのです。
「どうして宿題を出すのかについてわたしの説明が足りませんでしたね。
宿題はレッスンで学んだことを思い出し記憶に留めておくためのものなんです。
そして記憶するにはレッスン日からある程度時間を置いて宿題をやる方が効果が高いと言われています。
どんなに忙しくても課題をサボらないサラちゃんは真面目だしよく頑張ってるとも思います。
それだけ頑張ってるからこそ頑張った分英語ができるようになってほしい。
そのためにお家で宿題をしてきてもらえませんか。」
それを聞いたサラちゃんはその場で涙をこぼしました。最初は一生懸命堪えていましたがその内堪えきらないほどに涙が勢いを増すとそれに呼応するかのように泣き声も大きくなりました。
サラちゃんが泣いた理由がはっきりと分からなかったわたしはかなり動揺しましたが、とりあえず彼女が泣き止むまで黙って隣に座り待ちました。
それからひとしきり泣くと、疲れたのかサラちゃんは何も言わずに帰って行きました。
わたしはお家で待つお母様に電話でその日起きたことを報告しました。
サラちゃんのお家は保護者様による送迎がなかったからです。
その時聞いたのですが、サラちゃんはお父様がとても教育熱心で厳格な方なのだそうです。たくさんの習い事もお父様の方針でした。
サラちゃんは三姉妹の次女です。しっかり者で優秀な長女、甘え上手愛され上手な末っ子に負けずに自分の価値をご両親に証明しようと、必死で習い事に取り組んでいたのです。
両親の期待に応えれば愛されるだろう、と考えたのかもしれません、
そうお母様は呟くと、申し訳ありません、今後宿題は家でするようわたしからも伝えます、と仰いました。
とても穏やかで優しい声のお母様でした。
その優しいお母様に免じてお家でサラちゃんがあまり叱られないといいなぁ、と願わずにはいられませんでした。
確かにサラちゃんは数多くの習い事をジャグリングすることに忙殺される日々を過ごすうちに習い事というイベントを事務的にそつなくこなすことに注力するようになりました。それは恐らく習い事を通して知識や技能を身につけてほしいと願うお父様の意向とは少し違うでしょう。
しかしほとんど遊ぶ間もない自分のスケジュールをサラちゃんは嘆くどころかしばしばクラスメイトに自慢すらしていました。
彼女が自慢に思っていたのは、クラスメイトよりも充実した日々を送っていることなどではなく、両親の期待にこたえ続けているという自負なんだ、と思いました。
倫太郎君の場合
このように子ども達がわたしの目に『間違い』と映る事柄をする時、多くの場合彼らにはそもそもその自覚すらないのだと知りました。
また間違いを自覚している場合も、自分の起こした間違いによってもたらされる結果や周囲への影響に対して考えが及ばないことが多いようです。
その『過ちに対する認識』が倫太郎君と他の子を大きく隔てているとわたしは感じました。倫太郎君にはどうも自分のしている事をある程度理解している節があったのです。
ある休み時間、倫太郎君は窓の外を見つめていました。
するとしばらく見つめた後わたしを呼び寄せこう聞いたのです。
「先生、窓から鉛筆落としてもいいですか」
その手には芯先が鋭く研がれた鉛筆が一本握られていました。
街中にあるスクールは6階に位置し、真下は往来の盛んな歩道です。
「それ、わたしが何て言うと思います?」
わたしは真っ直ぐ倫太郎君を見ながら聞き返しました。
「だめって、言うと思います。危ないから」
「分かっているなら止めましょう」
「はい」
このやり取りの最中無表情な倫太郎君の顔がこちらを向くことはありませんでした。
このような謎のやり取りは何度か行われました。
そして倫太郎君は決まって自分の行為がもたらす危険を知っていました。
知っていてなぜやりたがるのか。
そしてなぜ必ずわたしの許可を得ようとするのか。
倫太郎君が伝えたいことをわたしは未だ分からずにいました。
つづく
きゃとらに🐈
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🐈つづきです☟